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最高裁判所第一小法廷 昭和51年(オ)117号 判決

上告人

澤村経夫

右訴訟代理人

臼居直道

被上告人

河井輝夫

外五名

右六名訴訟代理人

上口利男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人臼居直道の上告理由について

原判決の引用する第一審判決添付別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、昭和一四年四月二七日上告人が家督相続によりその所有権を取得したものであるが、かねてより訴外河井英一が小作人としてこれを耕作し、その小作料は、同人から本件土地の管理人のように振舞つていた訴外佐藤厚に支払われていたところ、昭和三一年七月二三日ごろ、上告人の代理人と称する佐藤厚と河井英一との間で、上告人が河井英一に本件土地を代金六〇万円で売り渡す旨の合意が成立し、河井英一は、右譲受につき農地法三条所定の許可を受けたうえで、昭和三二年三月九日その所有権移転登記を経由し、そのころ代金金額を支払つた。

かくして河井英一が本件土地の所有権を取得したものと信じてその占有を始めたが、本件土地の一部についてはその後河井英一によつてされた売買、交換に基づいてこれを取得した者が河井英一の占有を承継している。

なお、佐藤厚には上告人を代理するなんらかの権限を有していたと認めるに足りる証拠はない。

以上は、原審が適法に確定したところであつて、本件土地の譲渡につきされた農地法所定の許可及び所有権移転登記の各申請手続になんらかの瑕疵があつたことは確定されていないところ、土地所有者である上告人には、すくなくとも、佐藤厚に公然と本件土地の管理人のような行動をする余地を与えた(事柄の性質上長期にわたるものであつたと推測することができ、原審認定の趣旨もここにあるものと考えられる。)等の点において権利者として本件土地につき適切な管理を怠つていたものといわれてもやむをえないところがあり、これらの点からすると、右所有権移転登記を経由した河井英一が佐藤厚を通じて適法に本件土地を譲り受けることができるものと信じ、その代金を支払つたことは無理ではないといえる。従つて、以上の事実関係のもとにおいては、佐藤厚に上告人を代理する権限がなかつたことを考慮に入れても、本件土地の小作人としてこれを他主占有していた河井英一は、遅くとも右の登記がされた昭和三二年三月九日には民法一八五条にいう新権原により所有の意思をもつて本件土地の占有を始めたものであり、かつ、その占有の始めに土地所有権を取得したものと信じたことには過失がなかつたものというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岸盛一 下田武三 岸上康夫 団藤重光)

上告代理人臼居直道の上告理由〈省略〉

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